ロケ地探訪

『天使のゆげ』12年後のロケ地探訪

JR奈良駅周辺2018.12

ロケ地探訪

奈良の街を舞台に撮られた作品『天使のゆげ(2006年)』。ある夏の夜、興信所に勤める主人公が、浮気現場の証拠を押さえるために張り込みをするシーンから物語が始まります。

(横田監督) "ほとんどのロケ場所がJR奈良駅近辺。と言っても観光スポットではなく、ラブホテルの周りであるとか、場末な場所が多かったです。奈良の町並みは2010年の「平城遷都1300年」をきっかけに随分ときれいになりました。この作品を撮影したのが2006年。まだ危ない雰囲気のする場所がかなり残っていました。"

ほぼ全ての作品が奈良で撮られている横田映画。昔の奈良を垣間見られるのも、作品を見る楽しみのひとつになればと思い「ロケ地探訪」と称して横田監督と一緒にロケ地の「いま」を取材していきます。(取材/サトリデザイン)

 

奈良らしからぬ? 怪しげな夜の舞台

映画の冒頭、主人公が浮気現場の証拠写真を撮るために張り込んでいるラブホテル。建物も看板も全貌は映っていませんが、地元の皆様の中にはお気付きの方もおられるでしょう。

そう、あのラブホテルです。JR奈良駅から少し南に行った場所に、現在も変わらぬ佇まい。

車通りも人通りも多い場所にあるため「なぜこんなところに?」と疑問に思っていたのですが、横田監督によると平城遷都1300年記念事業で再開発される以前は人通りの少ない場所だったそうです。このあたりの雰囲気が大きく変わったのにはJR線の高架化が大きく影響しているようです。(写真はホテルの前から見た通りの様子。)

2010年まで地上を走っていたJR桜井線

張り込みに失敗し、追いかけられる羽目になった主人公。走り出したすぐ先に踏切が登場します。走っている電車はJR桜井線。2010年に高架化されたため、この踏切は現存しません。

高架化された線路と横田監督。夜な夜な撮影を行っている時にパトカーがやってきて職務質問を受けた思い出もあるそうです。

踏切があった辺り。ひと気はないもののきれいに整備され、場末感はありません。

遷都1300年記念事業のなごりでしょうか。 錆びついた看板にも月日の流れを感じます。

迷路のようなならまちの路地

追いかけられた主人公は夜の奈良を走り続けます。ならまちの音声館の近くにある細くて背の高い路地。

映画のシーンを再現すべく監督にも走ってもらいました。左のブロック塀も右の白壁も当時のままです。

主人公が自転車とぶつかるシーンは「餅飯殿(もちいどの)センター街」の中。

興福寺や猿沢の池からも近い場所にあり、日中は観光客でにぎわいます。

夜8時頃には人もまばらになり、深夜の様相は映画のシーンそのものです。

線路脇のラーメン屋台

ふいに現れるラーメンの屋台。冒頭と同じくJR奈良駅近くのうら寂しい線路脇で撮影されました。
屋台の後方に見えるのはJR桜井線の線路にかけられた陸橋です。

(横田監督) "ラーメン屋の屋台が(中略)細部まで手の込んだ本物以上に本物らしいもので。撮影中に勘違いしたお客さんが来店するというハプニングが続きました。"

現在の様子。高架化された線路の下に空き地が残されていました。金網越しに見ることができます。

最後に。自転車に乗った酔っ払いが通り過ぎるシーン。関西電力の電波塔が後方に見えます。

同じ場所から撮影した電波塔。線路をまたぐ自動車用の高架橋がなくなり、広い道が走っています。見比べると、随分雰囲気が変わったことが窺えます。

横田監督の作品の中には、さらにひと昔前のJR奈良駅付近を舞台にした映画『赤木カルタさんの夢(1997年)』もあります。
そちらのロケ地探訪も、いつかまた。

取材/サトリデザイン