WORKS

2007月光

STORY

美しい満月が昇る夜。カルチャーセンターの廊下を歩く少年。ふと室内を見るとひとりの女性がピアノを弾いている。目の前にはベートーヴェンピアノソナタ「月光」の譜面。女性は手を休め少年を見る。「入ってきたら」と声をかけるが、少年は手話で応じる。耳が不自由なのだ。少年は建物の別の部屋に。そこでは「ろう者劇団」の練習が行われていた。

一方、カルチャーセンターの隣の家。若い夫婦がケンカの真っ最中だ。苛立つ夫は席を立ち窓際に。カルチャーセンターより流れてくる「月光」の音色。夫は妻を呼び寄せる。不満気に近づく妻も「月光」の音色を耳にする。夫は別の部屋に。押入れをあさり1枚のレコードを取り出す。「月光」のアルバムだ。夫婦にとって「月光」は思い出の曲であるらしい。

練習を終えて夜道を歩く少年。そこで季節外れの花火をする先ほどの夫婦と出会う。ピアノを弾いていた女性も通りがかり。

月夜に起こった不思議な出会いを、セリフ・効果音・音楽など一切の音を使わずに表現する。出演は「奈良ろう者劇団 大仏も笑う会」のメンバー達。

Gekkou
In the night a beautiful moon lighting, a boy is walking on a corridor of a culture center. A lady is playing a piano in a room. There is music of “Moonlight” sonata by Beethoven in front of her. The lady stopped playing and sees the boy. She tells him to come in, but he uses sign language to answer her. He is hard of hearing. He goes into another room in the same building. “A theatrical company of deaf people” is practicing in the room. In the house next to the culture center, a young couple is quarreling. Husband leaves with irritation, and stands by the window. The tone of “Moonlight” is flowing. He calls his wife to come. She seems grumbly but closes to him and hear “Moonlight.” Husband goes to other room to get an LP record from their closet. It is an album of “Moonlight.” It seems that “Moonlight” has a memory for them. After practicing playing, the boy is walking on a street. He meets the couple above, who enjoy fireworks which are out of season though. The lady who was playing the piano passes them as well... This film describes a strange encounter at night lighten by moonlight without any sound such as lines, sound effects or music. The members of “A theatrical company of deaf people in Nara, Daibutsu mo warau kai” play in the film.

DV / 16:9 / 18 minutes

STAFF

プロデューサー /
赤松亮
脚本・編集 /
横田丈実
撮影 /
松浦昭浩
照明 /
岸田和也
メイク /
松本佐枝
出演 /
奈良ろう者劇団 大仏も笑う会

GRAPHICS

  • フライヤー

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DIRECTOR'S NOTE DIRECTOR'S NOTE

大阪長田町で「ろう者劇団」の公演を観ました。まず本番前の客席の様子に驚きました。誰ひとり声を発する人がいない。静まり返った中を皆さんが手話で話されていたんです。時折電車などで手話で話される人を見かけますが、その時はこちらが多数派。ところがこの日は違いました。本番が始まるとさらにびっくり。通常の演劇とは異なり、手話を駆使した声を発することのない世界。何だか今まで当たり前だと思っていたことがひっくり返ったように思えました。

その時の体験が音のない映画への発想に繋がりました。いわゆる無声映画は、字幕が入ったり、音楽が入ったりします。「月光」はその全てをなくした無声映画ならぬ無音映画なんです。

脚本を練る前に町が主催していた手話教室に通うことにしました。一年ほど通いましたが当然ながら手話をこなすことには至りませんでした。ただ脚本作りの役には立ったと思います。

出演願ったのは、王寺町で活動される「奈良ろう者劇団 大仏も笑う会」の皆さん。メンバーはろう者と聴者が混在しています。映画の中では実生活に即して役を配分しました。聴者の方がろう者の方を演じることはありません。もちろんその逆もです。

撮影は松浦昭浩さん。照明は岸田和也さん。「あかりの里」に続いてのコンビになります。硬質感のあるモノクロ映像を作ってくださいました。