WORKS

2013加奈子のこと

STORY

田所高士は77歳にして妻である加奈子を亡くす。2人の間に子供はなかった。ひとり暮らしを始める高士。保険の手続きなど何かと気忙しい。しかし満中陰の法要を区切りにして高士の人付き合いは減っていくことに。ポツリとひとり食べる夕食。じめじめと雨の降る夜は目が冴えて眠れない。ある夕暮れに高士は飲めないビールを口にする。そして妻の幻影を目にする。脳梗塞の後遺症を患っていた妻。ボールをつくことでリハビリとしていた。トントントン。ボールをつく妻の姿が目の前に見えたのだが。気が付くとひとり縁側に座っているのだった。ある日、妻の妹である裕子が高士の元を訪ねてくる。高士は裕子になけなしの接待として作り置きの肉じゃがを出す。肉じゃがを口にする裕子。その味は姉の加奈子が作ってくれたものとそっくりだと驚く。裕子はさらに深く味わい「美味しいです」とつぶやく。高士もまた深く頷くのだった。

妻を亡くした男の喪失感。やがて魂を照らす慈愛の光を描く。

Kanako no koto
Takashi Tadokoro is 77 years old, and he lost his wife, Kanako. They don’t have any child, and Takashi starts living alone. Many things to do such as insurance procedure make him busy. However, after the memorial service held on the 49th day after Kanako’s death, Takashi becomes unsociable and inclines to keep to himself. He has dinner by himself, and he cannot sleep in the rainy night. At nightfall, Takashi drinks some beer that he actually cannot drink, and he sees visons of his wife. His wife was suffering from the aftereffects of cerebral infarction, and trying rehabilitation by bouncing a ball. Tap-tap. Though he sees his wife bouncing a ball, when he becomes conscious, he sits on the veranda alone. One day, Yuko who is a sister of Kanako visits him. Takashi serves a dish he cooked. Yuko eats it and she is surprised at the taste that is exactly same as the one Kanako cooked. Yuko enjoys the dish and says “delicious.” Takashi nods to her deeply. This film describes a man’s deep loss of his wife and an affectionate gleam that will light their souls before long.

STAFF

プロデューサー /
金勝男
脚本 /
横田丈実
撮影 /
松浦昭浩
照明 /
柳川清志
録音 /
宮井昇
編集 /
横山健二・横田丈実
ヘアメイク /
上田佑
スタイリスト /
長田浩典
音楽 /
島田篤
出演 /
寺下貞信・川本美由紀・綱本暢子・山路梨瀬・門田裕・アサダタイキ 大東良清・中西康子・山本光昭・藤井尚子

GRAPHICS

  • フライヤー

  • フライヤー

DIRECTOR'S NOTE DIRECTOR'S NOTE

私は僧侶として檀家さんの家をお参りに訪れるのが日課です。当然ながら各家でさまざまな交流が生まれます。

70代の男性の方が奥様を突然亡くされることになり。ひとり暮らしをされていたんです。お参りの際にお話をしていたんですが、唐突に泣き出されまして。うめくように「寂しいんですわ」と呟かれたんです。普段は気丈な方だっただけにショックを受けました。もちろんその方だけではなく近頃はひとり暮らしをされる方が増えてきました。「加奈子のこと」には、そんな方々のお姿がだぶっているのかもしれません。

主役は寺下貞信さんにお願いしました。83歳というご年齢。「加奈子のこと」は寺下さんという存在があってこそ成り立った作品だと思います。とにかく座られているだけで味がありまして。

映画の終盤で主人公の男性が亡くした妻の妹と話す場面があります。とても大切な場面です。演じるのは寺下貞信さんと川本美由紀さん。お二人は同じ「関西芸術座」に所属されています。だからこそ生まれる間合いもあるんですね。

この映画のロケ地は檀家さんのお家。中庭のあるこじんまりとした感じや、暮らしを感じさせる風合いが、とても気に入りました。物語はほぼすべてがこの家のなかで展開されます。屋外のカットはたった2箇所しかありません。それだけに撮影は難しかったのですが。撮影が松浦昭浩さん。照明が柳川清志さん。時の移り変わりや空間の奥深さを見事に出してくださいました。

完成後には作品のテーマに共感してくださる方が多かったです。病院での研修会や、過疎地での集まり、東北の被災地など今までになかった場所での上映が実現しました。