WORKS

1992蝸牛庵の夜

STORY

春の日。住職の息子は何をするでもなくぼんやりと暮らしている。風が吹き、鉛色の雲が空を覆いだして、雨が降り出す。そして季節は巡っていく。祭囃子の夏。虫の音が聞こえる秋。お寺を訪ねてくるのは酒好きの友人ひとりだけ。その友人も東京への転勤が決まることになり。
冬となり、みぞれ混じりの雪が降る。また同じように季節だけが過ぎていく。

何も起こらない日常を透徹したまなざしでとらえた第2作。日のうつろいや風の流れ。ささやかな音。映画にしかできない表現を求めて完成までに3年の期間を要した。「蝸牛庵」とは「かたつむり」の動きのようなゆるやかな時間と、家にこもったものの意味を表す。

ぴあフィルムフェスティバル'92入選作品。

Kagyu-an no yoru
The season is spring. A son of the chief priest idles his time away. Winds come, clouds start to cover the blue sky and it comes to rain. Then, the seasons go around. -Festival music in summer. -Insects’ chirp in autumn. A drinker friend is the only one who visits the temple, but he will leave here to Tokyo for his job... Winter comes, and it sleets and snows. The seasons just go around as usual. The second film Yokota directed focuses on daily life in which nothing happens but something precious exists. Fickle days, the flow of a river, a small sound... It required 3 years to make this film to seek for the expression that only films could. “Kagyu-an” means slow and gentle time as if “Katatsumuri = a snail” goes, and a person living in seclusion in a house. Pia Film Festival '92 winning work.

8ミリ / 4:3 / 53 minutes

STAFF

脚本・撮影・編集 /
横田丈実
音楽 /
釋臣洋文
出演 /
扇谷泰伸・大原一仁・横田兼章・横田昌子

DIRECTOR'S NOTE DIRECTOR'S NOTE

大学を卒業してお寺の仕事をするようになりました。あまり友人と会うこともなくなった頃の作品です。

とにかく風景ばかりを撮っていました。風景と言うより光景ですか。柱にかかった布が風に吹かれてポトリと落ちる。そんなカットに膨大な時間をかけていました。だんだんと身の回りのこと以外に興味が無くなり。精神的にも少し鬱気味だったのかもしれません。

当時の自主映画は8ミリフィルムによる撮影が全盛でした。8ミリフィルムは写真店に現像を出さないといけない。1週間ほどして出来上がった映像を映写機にかけてチェックします。気に入らなければ再度撮影。結局完成するまでに3年ほどかかりました。どこで上映する予定もなかったので問題はなかったのですが。

ぴあフィルムフェスティバルに応募すると最終選考に残ることに。当時はメールはおろか携帯電話もなかったので、最終選考に残ったという知らせは、直接家の電話にかかってきました。今でもよく覚えています。うれしかったですね。

ある審査員が「無為に見える日々がどれ程豊かなものであるかを、光と音とゆったりとした時間の流れの中に表現した」と評してくださいました。 結局賞には至らなかったのですが。映画作りを続ける励みになりました。